劇団キンダースペース
利賀サマーアーツ高校生ワークショップ


北日本新聞 2002年8月8日 掲載
利賀サマーアーツ開幕
左 平野雄一郎

演劇の基礎 高校生学ぶ
プロから発声や歩き方

 
国内外の芸術家が参加する舞台芸術の祭典「利賀サマー・アーツ・プログラム2002」が七日、利賀村の県利賀芸術公園で開幕した。初日は、高校生を対象にしたワークショップがあり、県内16校の演劇部で活動する生徒、教諭百十三人が発声やウォーキングなど演劇の基礎を学んだ。

 同プログラムは、舞台芸術財団演劇人会議(鈴木忠志理事長)が主催。約一ヶ月にわたって利賀演劇の魅力を紹介する舞台公演、若手演劇人を育てる教育プログラム、演出家コンクールなどがある。
 ワークショップは、利賀村複合教育施設で行われ、劇団キンダースペースを主宰する劇作家・演出家の原田一樹さんが指導。劇団の若手団員七人も加わった。
 発声練習で、体を仰向けにしリラックスした状態で、声を響かせる方法を訓練。生徒たちは額に汗をにじませながら真剣に取り組んだ。
 ワークショップは九日まで続く。
 九日からは世界七カ国の演出家と俳優が参加する演劇塾、十二日から演出家コンクールが始まる。

富山新聞 2002年8月8日 掲載
舞台芸術家を夢見て
右 古木杏子
利賀サマー・アーツ
高校生が【夏期特訓】

 若手の舞台芸術家の顕彰、育成を目指す「利賀サマー・アーツ・プログラム2002」が七日、利賀村で始まった。第一弾として高校生夏期演劇講習が利賀小、中の体育館で行われ、県内の高校生98人が埼玉県川口市の劇団キンダースペースの団員から表現方法、ウォーキングなどの指導を受けた。
 演劇講習では、県内十六校の演劇部の生徒たちが県利賀少年の家に宿泊しながら、九日までプロの団員のトレーニングを受ける。
 生徒たちは六班に分かれ、最終日に創作寸劇を披露するプログラムで、初日は手をたたきながら、相手の名前を呼ぶ方法や自己紹介して相手とハイタッチするなど原田一樹代表や団員から表現力の指導を受けた。
 井波高一年の笹川育実さんは「声が小さいので鍛えたい。いろんな高校生が一緒に学べて楽しい」と話した。

 サマーアーツプログラムは利賀村を会場に様々な舞台芸術の事業が行われる。十二日から二十四日まで舞台作品のコンクール、十八日に舞台芸術財団演劇人会議理事長の鈴木忠志氏と俳優たちのレクチャー&デモンストレーション、二十四日に舞台公演「新版 世界の果てからこんにちは」などがある。



夏の利賀村サマーアーツフェスティバル参加報告

劇団キンダースペース 演出家 原田一樹

 8月14日現在、富山県の利賀という標高八百メートル、かつて過疎に瀕した合掌造りの里が、今や春と夏の演劇フェスティバルによって演劇人たちのメッカとなりつつある谷間の村に滞在し、若手演出家コンクールの審査員の一人を勤めています。コンテストは99年に始まり、初年度から国内海外と分けられたジャンルの一方の審査を引き受けてはいましたが、今回より一本化され、今日迄で六作品、今後十八作品を審査して、最優秀賞と優秀賞が決められる予定です。
 これに先立って、今年は、富山県の高校演劇協会の高校演劇部生徒相手のワークショップ(フェスティバルの一貫です)をキンダースペースで請け負い、7日から9日まで、百人の高校生相手の演劇のレッスンと指導を若手の劇団員と供に進行し、その終了後、引き続いて本日まで訓練合宿を行ないました。
 参加者は、平野雄一郎、小林元香、仲上満、坂上朋彦、斉藤貴司、木藤秋子(彼女は劇団員ではなくワークユニットの参加者ですが、今回女優が少ないため特別に加わりました)、古木杏子が高校生ワークショップのリーダーで、合宿の二日目まで帯同しました。
 キンダースペースとしての本格的な合宿はこれが初めてで、またそれを多くの演劇人の交流するこの利賀サマーアーツフェスティバルの期間中に行ないたいということは、かねてより願っていたことで、さまざまなレベルでの演劇的な交流は本人たちにも大いに刺激になったことと確信しています。
 フェスティバルにはコンクールの参加者、舞台公演の観客はもとより、同時に行なわれる演劇塾の生徒たち(半分近くは外国人)や、高校演劇部生徒、全国の劇団の関係者、プロ、アマチュアの俳優たち、審査員、演出家、評論家、教授、プロデューサー、公共ホール担当官など演劇関係者が常に百名以上滞在し、育成を中心としたプログラムが常時開催され、至る所で垣根をこえた交流が行なわれています。
 劇団というものは、自分たちの公演作品を作り上げるときは、集団的にも個人的にも一つの核に向かって集中せざるを得ないわけで、ある意味、その密度の高さが作品としての完成度を支えるわけですが、同時にその過程では、外側の価値に目を向けないことにもなっているわけです。これは当然で、造っている最中に評論家の意見や、観客の感想などを気にして創造の軸がぶれていては作品とはなりません。それ故、こういったイベントへの参加の意味は、その逆に、自分たち自身の存在の意味や価値を他者を通じて知ることとして意義があるのです。
 同じ演劇に対して全く違う考えや方法を持つ人たちとの語らいや意見のぶつかり合い、議論を経て、自分たちがこの世界の中でどういう存在であって、何が独自であって何を目指していくべきかを考え、進むべき方向を感じ取っていくわけです。
 同じような体験は劇団員の指導した高校生のワークショップでもありました。さまざまな学校から集まった総員百名ほどの高校生たちを六つのグループに分け、最終日にはこちらの提案した課題(「展覧会の絵」というタイトルと音楽) にそって十五分ほどの作品を創るのですが、そのグループの中には同じ演劇部の部員は多くて2人であり、ほとんど初対面の他校の同級生や下級生と一つの作品を創らなくてはならないのです。彼らは先ず手探りでお互いの共通部分を探って行きます。時には話し合いが行き場をなくして、不安が論議の中心になり、意見の否定しあいになったりするわけですが、この時に議論の方向を、決して自分のアイデアを押しつけたり、結論を持ち出す事無く修正して作品づくりに向けるというのが、一人づつで一つのグループを受け持った劇団員に与えられた仕事でした。私は六つのグループを見て回っていましたが、それぞれに予想外の展開や産みの苦しみ楽しみがあったようで、この辺りのエピソードについては、きっと劇団員各人から、すばらしい体験報告があるだろうと信じています。
 演劇的な創造とは、もちろん俳優個人がその技術や意識において向上する事も大事ですが、その創っていく過程は局面ごとの様々な出会いであり、その出会いに新鮮さを見付ける感受性もまた重要な要素の一つです。他者と出会う、自分と出会う、そこに新たな発見をどれだけ持ち得るか、これは舞台芸術がライブの表現であるということにおいて、不可欠な事です。きっと、今回の合宿はキンダースペースの俳優たちにとって一つの財産になる筈だと、全員を送り出したあと、一人満天の星と緑の山々のもと、確信していました。
 なお、キンダースペースのもっとも新人(随分とうはたっていますが) 斉藤貴司は、本人の希望でこのフェスティバルの最終日まで居残り、その後一緒に石川県能登半島中島町の演劇堂主催町民劇団公演の稽古開始に演助として付き合うことになりました。演目は木下順二作『夕鶴』で本番は11月、演出は原田がします。ちなみに彼は今、鈴木メソッドという俳優訓練法を受けにきているオーストラリアの劇団の俳優たちと同宿になり、片言の英語で演劇について語り合い、またこの後、山の手事情社という前衛的な芝居をする劇団の主催者安田氏の行なう大学生ワークショップの助手ともなり、利賀演劇塾のエレン・ローレンのレッスンを連日見学し、事務局の雑務を手伝い、コンクール作品を全て観劇、深夜まで塾生と語り合い……、という加速度的に多忙な交流の輪の中に居るようです。


利賀村高校生ワークショップ日記

劇団キンダースペース 俳優 坂上朋彦

8月6日(火)
 午前9時、強い日差しが見守る中、総勢8名2台の車に乗り込み富山県利賀村に向けてアトリエを出発する。利賀村に到着したのは夕方。人口800人、アブの数その数十倍。四方を山に囲まれ、その真ん中を百瀬川が流れ、その両側に畑や田んぼが広がり民家がポツポツと散らばっていた。最初に行ったのが、これから高校生ワークショップと私たちの合宿で使用する施設アーパスであった。合掌造りの見られるこの村で、最新の設備が整った、あまりにモダンな建物に思わず目を見張った。

8月7日(水)
 昼食後、自然の家へ向かう。そこにいたのは、ういういしさとあどけなさを備えた高校生達だった。それを見るや私の内面は心安らぐ静けさから胸が高鳴る緊張へと素早く早替りした。そして、高校生100名を相手にしたワークショップが始まる。
 100名を6班に分けて私たち一人一人がそれぞれの班を担当する。最初は全体でのウォーミングアップ。私たちは担当の班を見て回り戸惑いながらやっている高校生に話し掛け、実際にやってみせる。ウォーミングアップの後、各班ごとに親睦を深めるために自己紹介ゲームをやる。これはひたすら相手の名前を覚えるゲームで、私たち自身のとってもこれから3日間共にする高校生たちの名前を覚えるのに最適な機会だった。その後キンダースペース流ウォーキングパフォーマンスのワークショップ。
 夕食後、最終日に発表する創作作品の話し合いに入る。原田から「今回のテーマは『展覧会の絵』」という発表があり、テーマ曲も流される。各班ごとに集まって、どういう作品にしていくかの話し合い。すぐにアイデアが思いつかず思うように先へ進まない。時間だけがどんどんと進んでいく。結局、話し合いは1時間30分に及んだが、多くの班は具体的な方向性は決まらない状態で終わった。

8月8日(木)
9時からバックステージツアーがあった。初めに野外劇場に足を運ぶ。石造りの劇場は扇形の形をしており、急勾配な客席を擁しギリシアの舞台を彷彿させるものだった。舞台奥には、池がありさらに見渡せば山々が聳えている。そんな雄大な景色を背景にもつ舞台の上で、ウォーミングアップ、発声練習をやる。あまりの眺めの良さ、心地よさのためになんとか夏の強い日差しを凌ぐことができた。
「なにやってるの?」というゲーム、「4コママンガ」を作るワークショップ、「縄なし縄跳び」「からす」「ケチャ」。ワークショップも残すは班別創作のみとなる。この頃になると、話し合いはスムーズに進みほとんどの班がストーリーやキャスティングが決まっていた。   
 夕食後、明日の発表に向けて最終的な話し合いが始まる。時間があまりないことを認識したのか、それとも芝居を自分たちで創る喜びを感じたのか、今までの雰囲気とはがらりと変わり議論が活発になっていた。そこに見たものは、作品を完成させるという皆の意志が一つになった光景であった。そこには時間の観念はもはやなく、就寝時間もなんのその、アイデアがなくなるまで話し合いは続いた。表へ出ると満点の星空。滅多に見ることの出来ないさそり座を眺め、気分よく宿へ戻る。

8月9日(金)
 ワークショップ最終日。早々と創作作品の準備に取り掛かる。各班、立ち稽古、打ち合わせに没頭する。決められた順番にホールでリハーサル、照明、音響と合わせて、13時「展覧会の絵」の発表が始まる。
 場内は笑いに包まれ、演じている方も見ている方も本当に楽しそうであった。発表が終わり全体講評に移る。原田さんの各班の作品に対するコメントの後で、各班の代表と、私たちのそれぞれが感想を述べ合う。そして、最後に心地よい音楽が流れる中で各班ごとに集まり、互いの健闘を称える握手を交わして別れを迎える。
 高校生を乗せたバスはゆっくりと走り出し私たちは一列に並んで、手を振り、笑顔でバスを見送った。そして、3日間に及ぶワークショップはバスと共に走り去っていった。