■テアトロ10月号 渡辺保氏 「今月選んだベストスリー」より
8月に越境すると俄然ベスト・スリーが出てくる。
一、ミュージカル「フォッシー」

一、長谷川孝治の「香水」

一、原田一樹演出の「危険な曲り角」

「危険な曲り角」はプリイストリイの旧作を原田一樹がテキスト・レジをして演出。去年のモームの「アーズリー家の三姉妹」に次ぐ作品。プリイストリイお得意の家庭劇であって、出版社ホワイトハウスの社長一家の悲劇。故ホワイトハウスの女婿キャプラン、妻フレダ、その弟のゴルドン夫妻、出版者の前秘書のオルウェン、重役スタントン、作家モック・リッジの七人だけで一杯道具。休憩なしで二時間あまり。最後には意外な事実が明るみに出て、モック・リッジ以外の全員の正体が明らかになる。一九三二年の作品だから、現代から見れば「だからなんなんだ」という疑問は残るが、芝居のおもしろさは十分持って、古臭くはない。ウエルメイドの典型である。去年に続いて阿部百合子が好演。ただし他の役者の演技力がいささか弱い。それでも二時間あまりを見せるのは、戯曲がしっかりしているからである。