1999 「悲劇喜劇」9月号 「演劇時評」より    貝山武久氏

編集部 

 では続いてギィ・フォワシィの「湾岸から遠く離れて」を。ギィ・フォワシィシアターが1994年に初演したものを5年ぶりに再演したものです。
中條忍訳・原田一樹演出・シアターX 6/3~10

貝山 

 ギィ・フォワシィはフランスの現代劇作家ですが、日本では早くから谷正雄氏がギィ・フォワシィシアターを設立して、専門的にこの作家の作品を上演していることで知らせているわけですが、この作品はこれまでのいわゆるブラックユーモア的な作品の特徴とはちょっと変わった味わいの作になっていると思うんです。

 物語は、ローズとジュリーの母子が単調な生活を紛らわすために下宿人を住まわせることを計画するわけですけど、やってきたのは湾岸を母国とするある国の青年で、エルザールという男性なんですが、若いジュリーとエルザールの間に、いつの間にか好意的感情が芽生えるわけです。そこへ突然湾岸戦争勃発のニュースが報じられてくるわけですね。

 そういう話を通して、フランスの市民の生活の意識や、そこに出稼ぎに来ている外国人の労働者との交流というか、異文化的で、かつある種差別的な扱いを受けている外国人との交流を通して、現代の市民社会にある不条理なものを描いて見せているわけです。

 ラストは、戦争で、湾岸に残されたエルザールの家族が死んだという知らせが来て、エルザールが自殺してしまうわけですね。そうした辛いラストになるんですけれども、でも、それをまた、何ごともなかったように次の下宿人を住まわせようと提案する母親のローズがいて、そこらあたりがまさしくギィ・フォワシィ的なプラックを感じさせる辛い幕切れになっている訳です。

 僕が観たのはギィ組とフォワシィ組のうちのギィ組の組み合わせでしたが、娘のジュリーを演じた瀬田ひろ美と、エルザールを演じた中村隆男が印象に残りました。瀬田は相手役との交流が正確で、台詞をきちんと内面的に受け止めて好感が持てました。特に目線の使い方がよく、外国人には珍しい気の弱さを持ったジュリーの形象をよく表現していたと思います。

 また、今回新しくエルザール役に登用された中村は、いかにも中東から来た感じのまじめで実直な労働者を演じて存在感があり、よかったと思います。若い二人の感情が次第に燃え上がってくるところなど、演出の原田一樹の巧リードもあって感動的に表現されていて、とても良質の芝居だったと思います。