■俳優座LABO「アーズリー家の三姉妹」劇評より
 テアトロ8月号 結城雅秀氏
 俳優座LABOの「アーズリー家の三姉妹」なかなか公演の機会のないサマセット・モームの作品。戦争はやはり、戦勝国の場合であっても、人々の暮らしぶりや伝統的価値に相当の影響を与える。第一次世界大戦後の英国においても、戦後の日本程ではないが、古い階級制度が崩壊の過程をたどる様相を示している。アーズリー家の頭であるレナードは表層的な範囲でしか気づいてないが、この家庭崩壊の悲劇にはアイルランドの貧困やスペインの作家ロルカの世界を思わせるものがある。演出の原田一樹は登場人物の葛藤と心理の綾をうまく描いた。
(中略)
 小さくまとまった空間に英国風の居間を配置し、更に、客席の中に二ヶ所の個人的空間を設けた舞台装置は意欲的に出来ていた。

 

■悲劇喜劇9月号「特集・思い出の舞台」より

高田  岡村さんには俳優座LABO「アーズリー家の三姉妹」、サマセット・モーム作、木下順二訳、
    原田一樹演出です。キンダースペースの演出家ですね。俳優座以外の人が俳優座LABOで演出
    するという。

岡村  結果的には大成功だったと思います。モームの芝居で、これは舞台はイギリス。    
    一見幸せそうな田舎町の弁護士一家が破壊していく芝居です。
    第一次大戦の後ですね。戦争で負傷して車椅子暮らしの長男と、そこの嫡男と、あと三人の姉妹
    がいるわけですね。長女のイーヴァは車椅子の弟の面倒を見ているために婚期をほとんど失いか
    けている。二番目の娘ロイスは肉体労働をやる農夫のお嫁さんになっている。末娘のエセルがこ
    れからというところの三人姉妹がいるわけです。
    その三人の娘がそれぞれ、例えば二番目は子供がいるけれども、もう結婚の夢は終わって、夫は
    アル中で暴力的な男になっている。長女は好きな男性がいるんだけれども、その男は戦争帰りの
    英雄で現実の世界に合わず、破産して自殺しちゃう。長女は最後に気が狂う。三人目の娘は、そ
    こによく現れる中年の男シダーに誘われて、本当に好きではないんだけれども、この世界から逃
    れたくて、ロンドンに行ってしまう。
    母親は癌で死が迫っているし、そういう破滅する中流家庭を描いているんです。特にこの三人娘
    がそれぞれの生きざまをよく表現したと思うし、脇を固めた男性軍もよくやってたと思います。
    全体に質の高い舞台でした。木下順二の訳も、とても良かったと思います。

高田  あの狭い稽古場に装置をがっちりと組んで、キャスティングが非常にうまくできてたんじゃない
    かなと。

岡村  いいキャストだったですね。

高田  ええ。

岡村  それからお母さん役の阿部百合子、弟の医者に手術を拒否して、「楽になる薬をくれ」と言う、
    自立した女性をよく演じていたと思います。やっぱりこういう芝居がまだ生きてるといか、他人
    事ではないというふうにお客さんは取ってたと思うし。今の日本の家庭と重ね合わせて。  
    なんと言うか一種、日本で言うと明治生まれの女性みたいな感じの…
    それぞれが、決してうまくいかないだろうと思う方向に、だんだんと行かざるを得ないというと
    ころがよく表現できていたと思いますね。

高田  そうですね。納得させられます。

岡村  破滅へ目がけて一生懸命生きていくという感じ。