レパートリーシアターVol.24
短編演劇アンソロジー 六〈近代作家シリーズ〉 芥川龍之介篇 その二
【架空線の火花】
羅生門 地獄
 或阿呆の一生 より

芥川龍之介はその短い生涯の終わりに多数の自伝的作品を残している。数においても方法の多彩さにおいても群を抜くそれらの短編は、いわゆる私小説とも自叙伝とも異なって、読者に或る神経的なイメージを喚起して迫ってくる。それはつまり、この作家にとって晩年の創作が、様々な作風をジグザグに進んだ作家の最期の足跡などではなく、創作に捧げつくした自身の神経の有り様、正に一本の道を進んでいった大詰めの、命を賭けた一瞬の火花だったということである。したがって私たちは、彼の作品を分類し見つめるのを止め、その神経でしか掴まえ得なかった人生の一瞬を並べ見ようと考えた。そこから浮かび上がるものは、繊細で才能に溢れ、神経も心も兼ね備えた一人の芸術家の姿。その筈である。


構成・脚本・演出/原田一樹

 好評の短編演劇アンソロジーシリーズ第6弾!

 わが国の近代文学を取り上げ、日本的なるもの、日本人に固有の心象や心情に焦点を当てて舞台化する事を目的とする「短編演劇アンソロジー」では、これまでに 芥川龍之介篇、織田作之助篇、志賀直哉篇、小泉八雲篇 を上演してまいりました。前回の芥川篇で基盤とした「南京の基督」「アグニの神」を受け、今回は第二弾です。

「羅生門」「或阿呆の一生」「薮の中」「疑惑」「春の夜」「尾生の信」「竜」などの作品を取り上げ、作家論、芸術論にまで迫りたいと考えています。

 この作品は芸術家の話であり、当然そこに作家・芥川自身の芸術観、創造への姿勢というものが強く反映されています。また、芥川龍之介という作家は、その自殺や精神病、風貌などから、腺病質な書斎派の作家と考えられていましたが、近年様々な新資料の発表や研究により、社会派的側面、行動する作家という側面も見せつつあります。新翻訳も手伝って中国や韓国、アメリカでの研究も進み、文学史の中のポストモダン的な位置で読み解こうとする国際的な動きもあり、今回は、そういった新しい角度からの読み方、評価も踏まえ、この二作を舞台化したいと考えます。

劇団キンダースペース 制作部